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21世紀セミナーレポ vol.22 講演抄録神谷誠先生講演3 最終回 神谷流「小児歯科経営学」

『共診:共感を呼ぶ共同健康診査』のすすめ

 ひところは、治療説明を効率よくする『共感健診』というものを、おおいに活用していました。話は少々それますが、東京大学の教育学部大学院のある有名な先生が、『不登校の児童の所に担任の先生が行って、どうやって不登校の子供に対応するか』というお話をされていました。言葉で説得してもだめなのだそうです。子どもの部屋に入ってその子ども、例えば「お、庭の花壇に球根うわっているけど腐っているから新しく植え替えよう」と、一緒になって同じ現場で同じ方向を向いて同じ作業をする『共同体験』を行う、これによって子どもは心を開いてくれるそうです。それからやっと先生の言うことを聞いてくれるということなのです。
 これは『歯科』に使えるじゃないか、とひらめいたのです。口腔内健診をします。「お母さん、今日はお口の中のチェックをさせていただこうと思うのですが、すみません、うちの衛生士は本当に仕事がいっぱいあってなかなかできないので、お母さん悪いけど手伝ってくれるかな?」とお願いします。最初にお礼を貰っているので、何か手伝うとまた貰えるかなという欲もあるものですから何となく「いいですよ、いいですよ」というノリです。「お手数ですが、お母さんちょっとそこにかけていただいて、私がCの1かないしはCの2などと言いますから、Cの1と言ったらここの欄に正の字を書いてください。Cの2といったら次の欄に書いてください。その次はC3、この横にペルとかプルとか歯肉炎とか2ページくらいあるのですが、すみませんがそこに正の字を書いていっていただいて、後で結果を集計して教えてください。すみません」と説明をします。
 衛生士さんはその間、忙しいふりをして何も言わないで、お母さんが間違ったらチェックをするだけです。普通でしたら学校健診の時など、子供には判らない専門用語でチェックしていますが、この時もわざと難しい単語を話します。
 そしてこの時、「お母さん、右上からいきますからね。左上にしようかな」とさかんに迷うのです。「えー右上のEですね。EがC・・・2じゃないなこれ、1かなオーかもしれない。やっぱりごめん、1にしておいて」と、この迷っている間にお母さんは健診票を読むのです。読んでもらうと何が書いてあるか、例えば『むし歯もこの程度なら絶対歯を削って傷つけてはいけません。積極的にレーザー治療をしたら元の歯に戻る可能性があります。これが虫歯の再生療法です』というようなことが書いてあるのです。C2だったらどうのこうの、根治だったらどうのこうの、レーザーを使ったらどうのこうのと、こちらで「こうしたい」という治療内容が書いてあります。
 だいたいこの方法でやると最低でも5分長いと10分くらいかかります。でもいちから説明すると20分、30分かかる治療説明が、「ハイ健診終了です。お母さんどうですか」「そうですね、だいたいレーザーかけてすむやつは2本くらいですね」と内容を把握してくれているのです。治療内容をわかっている。「根管治療、先生のところ1回で終わるんだけどレーザー使った方が早いんですよね。普通でやるとああそうか、やっぱりレーザー使ってもらった方がいい」というように、だいたいお母さんの頭に入っています。そうなると衛生士さんが次回のお約束をしようとすると「先生このむし歯だったら、レーザーなら今日できるんじゃないですか、このくらいだったら」「え、だって」「いいからどんどんやって」みたいな話しになって、向こうから進めてくれます。あまりに突っ走りすぎて「これだったら1日で終わるでしょう」と言われるとちょっと困りますが、少なくとも内容に対しては「同意」を通り越して「支持」してくれるようになると楽なものです。ぜひ『共感健診』をお試しください。

『削らない』治療のために

 次に、『再生医療』という話しをします。むし歯で来院したお子さんのお母さんにこのようなお話をしています。「実はむし歯というのはだいたい1年間に2ミリくらい進んでいきます。放っておくと、場合によっては半年くらいで痛くなる場合もあるけど通常は2、3年すると痛くなってくるよね。でもドリル、歯医者のキーンっていうドリルあるでしょう。あれいっきに穴が開くんだよ。穴を“開けちゃう”んだから。だとしたら、削る前にもうちょっとやることがあるんじゃない?人工物で詰めた歯はむし歯にならないと思う?」「ならない」「それは銀歯の“銀”がむし歯になったという話は聞かないけれど、詰め物のつなぎ目からまたむし歯になるんだよ。それなら詰め物の寿命を延ばすために最大限やることをやってからじゃないとだめじゃないですか。人工物でおきかえてあなたサイボーグになりたいの?」という話をして再生医療という方向へもっていくわけです。充填は2ヵ月待ちます。痛みがあって腫れて歯髄炎をおこして何か詰まっていれば別です。この程度の白濁はちょろいものです。レーザーをかけてフッ素塗布をして1ヵ月後にはほとんど白濁は消えています。このくらいになるとちょっと厳しい。歯茎部に白濁があります。こんな所に穴があきはじめています。探針さそうものなら「痛い」と言われそうなものですが、例のごとく探針はご法度でございますので、様子をみてレーザーをあてて半年後です。なんとなく白濁も消えてきたし、ここも浅くなってきたぞと。2年待ちますとほとんどなくなります。削らなくてよかった、詰めなくてよかったという結果ができるのです。
 ダイアグノデントという初期のう蝕を測るレーザーがございます。ダイアグノデントを私のところは発売されてからすぐに、2台買ってしまいました。その当時から言われていることですし、今だによく言われています。「ダイアグノデント、どうも計測結果が安定しないし信憑性がうすいんじゃないの?」と。そうお考えの先生方も多いと思います。私はあえてそういう先生に反旗をひるがえすつもりはありません。確かにいい加減なものです。でもそれはダイアグノデントを『むし歯を削る免罪符』にしているからです。免罪符とはこれがあったら切り捨てごめんみたいなものです。ようするに歯を削るという罪の意識をごまかすための道具。この開発者が、だいたい35の値をこえたら歯を削って充填しなさいという指標を出しております。だからその数値を「お母さん、ほら歯が泣いているよ、だからむし歯を早く削って詰めよう」という免罪符に使うから数値が安定しないと困るのです。しかし、ダイアグノデントは免罪符ではないでのす。その歯の生命力活性力、どう変化していくかその一時期の指標を参考までにセカンドオピニオンとしてとるための道具なのです。ですからひとつの歯がむし歯がどう変わっていくかをみるためのもので、すぐに削って詰めてしまうのならこんなものいらないのです。詰めないで予防管理を続けていく間にどうなっていくかを計る機械だと思っていれば、別に安定しなくてもいいじゃないですか。右の歯と左の歯を比べる必要もないと思っています。右の歯が今日は30あった、明日は40あった、2週間後50だった60だった、そういう経時的変化の中でう蝕の動向を調べるための道具だと思っています。当院ではそのように使っています。他のレーザーのことは深く言いませんが、このプラズマ光レーザーをう窩に照射すると特にたんぱく質のリッチな部分とか多重反射をおこして裂溝の深い所に選択的に反応して、こげるのではなくて溶けます。炭ではなくて灰になります。ですから真ん中に白いところが見えるでしょうか。これがレーザー照射後の状態です。黒くこげたところではありませんから念のため、白く灰になるところです。このレベルのパワーでやるのです。そうなったところにフッ素をします。フッ素を塗布してからやってもいいです。レーザーやってからフッ素してもいいです。やってからフッ素してもう一回やってもいいです。よくある例として、レーザーを照射するとその直後はダイアグノデントの計測値がかなり下がります。その後2週間程度で再計測しますと、さらに下がっています。裂溝に色はついていますが、「うん、この歯は進行が止まっている。お母さん自信持ってがんばろうよ。他の臼歯は詰めてしまったけど、こっちの方は元の歯に戻っていくよ、だんだん。前より歯質が強くなっている可能性の方が高いから自信もってがんばろうよ」というようなことを多くの先生と数年間にわたりデータをとりました。その数800本、後に2000本を超えましたが、このデータは800本の時のものです。乳歯Eの咬合面、6番の咬合面それぞれ800本の歯を計測いたしました。最短は2ヵ月、最長は2年までフォローをすることができました。もちろん途中で脱落してくこともあります。患者さん自体が来なくなってしまった事がありますから、その中で有効データとして800本あります。見て下さい。レーザーかけてフッ素すると、多くの計測値が右肩下がりのカーブを描いていくのです。つまりレーザーで予防して、だんだんう蝕が沈静化していくんだという傾向が見られるのです。実にトータルでいうと65%くらいだったかな、ダイアグノデントで60以下のものは、フォローしていったら1割2割を除いては削らなくてもよかったという結果が期待できるということなのです。削っちゃいけないだろうという結果になってくると私は考えました。「では途中でむし歯になったらどうするのよ」とご心配の先生、なんのために定期健診をしてるんですか?レーザーをあてて1年後に来なさいと言っているのではないのです。「レーザーあてるね、フッ素するね、必ずフォローさせてね。1ヵ月後に来てね、2ヵ月後に来てね」そういうフォローをするために定期健診があるわけで、今か今かとむし歯ができるのを待って削るタイミングをうかがうのが定期健診ではないでしょう。私は削らずに治すほうがいいと思っています。「だいたい神谷先生のところに行くと、むし歯1本治すのに2年もかかるしお金もかかるし」と言われます。そうですよね、削って詰めないという保険診療がないものですから。とりあえず詰めないという、充填をしないという治療項目がないものですから、当然ご想像におまかせするくらいの費用がかかりますが、患者さんの多くが一様にこれを求めて当院にいらっしゃいます。先生の所は削らないというから来たと。そういうわけでかなりの確率でう蝕予防ができます。

子育て歯援隊

 しかし、最大の難関はお母さんの焦りです。「今にもこのむし歯がどんどん深くなってうちの子の脳みそにバイキン入るんじゃないの」と言われると「とりあえずお母さん焦っちゃだめ。お母さんむし歯だけではないのです。歯の生え方、言葉の覚え方、しゃべり方、何でもかんでも個人差があるのですから、みんな同じに育っていくわけではない。だからこそ一喜一憂しちゃいけない。それを一緒に見ていくのが子育て歯援隊なのです。焦らない。ゆっくりやりましょう。ゆっくり。むし歯の治療もゆっくりやっていいじゃないですか。責任持ちますから」とお話します。
 以前コムネットの会員向け情報誌「Together」で書かせていただきましたが、患者さんの健康を全身全霊をかけて守るじゃないですか。責任を持つということが私はプロフェッショナルだと思います。できないことはあるのです。できないことはあるけれど、責任をもって最後まで付き合うのです。それがプロフェッショナルだと私は思います。そのためには時間も必要だし回数も必要だし、何よりもお母さんの信頼が必要だし、お子さんが「あそこの歯医者さんだったら行ってもいいよ」と言ってくれないと、犬の散歩じゃないのですから首になわをつけて歯科医院へひっぱっていくわけにはいかないのです。それが『子育て歯援隊』だと私は言っています。

(終)