




『共診:共感を呼ぶ共同健康診査』のすすめ
ひところは、治療説明を効率よくする『共感健診』というものを、おおいに活用していました。話は少々それますが、東京大学の教育学部大学院のある有名な先生が、『不登校の児童の所に担任の先生が行って、どうやって不登校の子供に対応するか』というお話をされていました。言葉で説得してもだめなのだそうです。子どもの部屋に入ってその子ども、例えば「お、庭の花壇に球根うわっているけど腐っているから新しく植え替えよう」と、一緒になって同じ現場で同じ方向を向いて同じ作業をする『共同体験』を行う、これによって子どもは心を開いてくれるそうです。それからやっと先生の言うことを聞いてくれるということなのです。
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衛生士さんはその間、忙しいふりをして何も言わないで、お母さんが間違ったらチェックをするだけです。普通でしたら学校健診の時など、子供には判らない専門用語でチェックしていますが、この時もわざと難しい単語を話します。
そしてこの時、「お母さん、右上からいきますからね。左上にしようかな」とさかんに迷うのです。「えー右上のEですね。EがC・・・2じゃないなこれ、1かなオーかもしれない。やっぱりごめん、1にしておいて」と、この迷っている間にお母さんは健診票を読むのです。読んでもらうと何が書いてあるか、例えば『むし歯もこの程度なら絶対歯を削って傷つけてはいけません。積極的にレーザー治療をしたら元の歯に戻る可能性があります。これが虫歯の再生療法です』というようなことが書いてあるのです。C2だったらどうのこうの、根治だったらどうのこうの、レーザーを使ったらどうのこうのと、こちらで「こうしたい」という治療内容が書いてあります。
だいたいこの方法でやると最低でも5分長いと10分くらいかかります。でもいちから説明すると20分、30分かかる治療説明が、「ハイ健診終了です。お母さんどうですか」「そうですね、だいたいレーザーかけてすむやつは2本くらいですね」と内容を把握してくれているのです。治療内容をわかっている。「根管治療、先生のところ1回で終わるんだけどレーザー使った方が早いんですよね。普通でやるとああそうか、やっぱりレーザー使ってもらった方がいい」というように、だいたいお母さんの頭に入っています。そうなると衛生士さんが次回のお約束をしようとすると「先生このむし歯だったら、レーザーなら今日できるんじゃないですか、このくらいだったら」「え、だって」「いいからどんどんやって」みたいな話しになって、向こうから進めてくれます。あまりに突っ走りすぎて「これだったら1日で終わるでしょう」と言われるとちょっと困りますが、少なくとも内容に対しては「同意」を通り越して「支持」してくれるようになると楽なものです。ぜひ『共感健診』をお試しください。
『削らない』治療のために
次に、『再生医療』という話しをします。むし歯で来院したお子さんのお母さんにこのようなお話をしています。「実はむし歯というのはだいたい1年間に2ミリくらい進んでいきます。放っておくと、場合によっては半年くらいで痛くなる場合もあるけど通常は2、3年すると痛くなってくるよね。でもドリル、歯医者のキーンっていうドリルあるでしょう。あれいっきに穴が開くんだよ。穴を“開けちゃう”んだから。だとしたら、削る前にもうちょっとやることがあるんじゃない?人工物で詰めた歯はむし歯にならないと思う?」「ならない」「それは銀歯の“銀”がむし歯になったという話は聞かないけれど、詰め物のつなぎ目からまたむし歯になるんだよ。それなら詰め物の寿命を延ばすために最大限やることをやってからじゃないとだめじゃないですか。人工物でおきかえてあなたサイボーグになりたいの?」という話をして再生医療という方向へもっていくわけです。充填は2ヵ月待ちます。痛みがあって腫れて歯髄炎をおこして何か詰まっていれば別です。この程度の白濁はちょろいものです。レーザーをかけてフッ素塗布をして1ヵ月後にはほとんど白濁は消えています。このくらいになるとちょっと厳しい。歯茎部に白濁があります。こんな所に穴があきはじめています。探針さそうものなら「痛い」と言われそうなものですが、例のごとく探針はご法度でございますので、様子をみてレーザーをあてて半年後です。なんとなく白濁も消えてきたし、ここも浅くなってきたぞと。2年待ちますとほとんどなくなります。削らなくてよかった、詰めなくてよかったという結果ができるのです。
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子育て歯援隊
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しかし、最大の難関はお母さんの焦りです。「今にもこのむし歯がどんどん深くなってうちの子の脳みそにバイキン入るんじゃないの」と言われると「とりあえずお母さん焦っちゃだめ。お母さんむし歯だけではないのです。歯の生え方、言葉の覚え方、しゃべり方、何でもかんでも個人差があるのですから、みんな同じに育っていくわけではない。だからこそ一喜一憂しちゃいけない。それを一緒に見ていくのが子育て歯援隊なのです。焦らない。ゆっくりやりましょう。ゆっくり。むし歯の治療もゆっくりやっていいじゃないですか。責任持ちますから」とお話します。
以前コムネットの会員向け情報誌「Together」で書かせていただきましたが、患者さんの健康を全身全霊をかけて守るじゃないですか。責任を持つということが私はプロフェッショナルだと思います。できないことはあるのです。できないことはあるけれど、責任をもって最後まで付き合うのです。それがプロフェッショナルだと私は思います。そのためには時間も必要だし回数も必要だし、何よりもお母さんの信頼が必要だし、お子さんが「あそこの歯医者さんだったら行ってもいいよ」と言ってくれないと、犬の散歩じゃないのですから首になわをつけて歯科医院へひっぱっていくわけにはいかないのです。それが『子育て歯援隊』だと私は言っています。