〈危機〉を突破する歯科医療
●東歯大同窓会汚職事件
皆様へのメッセージを、この話題から始めなければならないことを心から残念に思います。3年前の日歯事件がまだ重く歯科界に沈殿している時に、それと訣別したはずの日本歯科医師会の専務理事(元)が贈収賄事件で逮捕された。この事態が物語るのは、第一に、歯科界の意識が「政治をカネで動かす」旧態依然の状態であることを露わにしたという事実です。それに対して「まだそんなことを」と危機感を覚えた方も多いと思います。
しかし他方で「どこでもやっていることだ」「1千万が多すぎた。もっと上手くやらなくちゃ」という言葉も耳にしました。しかし、もしあなたが同じように考えるとしたら、それはちょっとアブナイ信号だと自覚してください。
●「患者」「国民」はどこに!?
第二の問題は、「患者」「国民」への配慮、思いがすっぽり欠落しているということです。すなわち「我」と同門の「身内」の利益のみを考えて行った犯罪ということ。誰しも自分はかわいい、身内も守りたい、その気持ちはわからないではない。しかし「自分(達)さえよければ」という利己的な考え方で歯科医療に当たっている歯科医師の犠牲になるのは患者であり、税金で医療費を負担している国民全体なのです。賄賂を貰っていたのは、国民の税金から給与をもらい、国民のために仕事をしなければならない社会保険庁の「指導医療官」であるからこそ厳しく断罪されてしかるべきです。
●歯科のグランドデザイン
むろん事件の背景には歯科の「経営危機」の深刻化という現実があります。先月の「週刊東洋経済」の特集「ニッポンの医者病院診療所」に描かれた「歯科医の5人に1人は年間所得300万円」つまり1ヵ月の所得が25万円以下の「ワーキングプア」で、100人中5人が「所得ゼロ」という現実、この「二極化」「格差」の進行にたいする対応が急務です。
前回でも述べたように、歯科の未来は、予防歯科の前進、歯牙を多く保有する高齢者の出現、アンチエイジング、口腔領域と全身とのかかわり等々、今後新しい需要と「歯科の市場」が創出されることを考えれば決して暗いものではなく、その意味で補綴の診療報酬請求をめぐって便宜を図るという今回の事件の構図は、減ってゆく「パイ」、目先の利益にしがみつくもので、どうみても将来を考えたものではない。歯科のリーダーは早急に歯科医療の「グランドデザイン」を描き歯科界と国民に示すべきです。
●患者さん・地域とともに
もうひとつの視点から歯科の将来を考えていただきたい。本誌で紹介している、みすみ歯科クリニックは、熊本県のなかでもとくに過疎化、高齢化が進む地域で開業して6年になります。医院の院長、副院長はじめスタッフ全員が「予防にまさる医療はない。町の人口の半分を予防で受診してもらえるように」「歯科を通じてこの町を健康で元気な町にしていきたい」と「虫歯予防戦隊 歯ピカレンジャー」というアイディアで町内を駆け巡っています。
そこには、自分(たち)だけが利益になるように、とか他を蹴落として「勝ち組」になるという狭い了見ではなく、誇りと喜びをもって地域の歯科医院みんなで「患者さんの健康と笑顔づくりを応援しよう」という清々しい志がみなぎっています。歯科の再生と発展は、こうした「患者さんとともに」地域に根を張ってがんばる歯科医療者によって成し遂げられるということを強く訴えたいと思います。