「歯科の市場」を創る
●月平均300万の売り上げ
日本歯科医師会がまとめた平成16年度の「都道府県別歯科医療費」をみると、年々厳しさを増す歯科医院経営の実態が読み取れます。1歯科医療機関あたりの1ヵ月の「売り上げ」即ち収入(社保・国保・老人保険収入)は全国平均で3,008,523円(前年比▲0.5%)。自由診療を2割プラスしても月360万の収入です。医業支出240万を引いた「収支差額」120万での遣り繰り。しかもそれはあくまでも「平均」の数字です。歯科界の「二極分化」を考えると下位の医院経営は「存亡の危機」と言っても過言ではないでしょう。
●秋田VS東京135万の格差!
県別の収入のトップは秋田で3,656,205円、逆に最下位「指定席」の東京は2,303,875円。その「収入格差」は月135万円にのぼります。秋田県の人口114.5万人を歯科医院数472で割ると、人口2426人に1医院、これなら「まだ」余裕があるかもしれません。東京は、人口1257.1万÷10,524医院=1250人に1医院という過密状態。この事態はすでに地方にも波及しています。診療報酬引き下げの中で、補綴治療の「パイ」を奪い合う歯科医療には「先がない」ことはあきらかです。これまでとは違う「何かをやる」決断が求められています。
●自分の歯「20本」が語るもの
兵庫県歯科医師会の調査で、「8020」達成者とそうでない人では、医療費が2割も違うことが実証され注目を集めていますが、先ごろ茨城県歯も国保のレセプトを1万件以上分析し、同様の興味深い調査結果を報告しています。
結論を言えば「20本以上自分の歯を保有する高齢者は、それより少ない人と比べて医科の医療費が1件あたり427.2点=4千円以上も安くすむ」というものです。国民医療費は9割以上が医科で占められており、「口腔環境」の向上が体全体の健康と医療経済に好影響を与えるという、歯科の役割を社会的に広める貴重な調査といえます。
● 「歯科市場創造」(1)歯を守る
かつて、本欄でも繰り返し紹介した話があります。それは1970年代にアメリカが取り組んだ「予防歯科」によってDMFの数値が30年間で59%激減した(17歳・1973年16.9本→1994年7.0本)という話です。診療内容でも、定期健診・予防処置・歯周治療を65%も増やす(充填・クラウン・抜歯は23.6%減少)という状況を作り出し、その結果歯科界は「かつてない」活況の様相を呈したという「劇的変化」の事実があります。
以前、筆者がアメリカの歯科界を視察したとき「保有歯の多い高齢者が増えてきて歯周治療、メインテナンスの需要が増大し全米4千5百人(当時)のペリオ専門医では対応しきれない」という声を聞きました。「歯を削る」過去の市場(Red Ocean)での患者の奪い合いではなく「歯を守る」こと、これが「歯科の市場」づくりの第一のテーマであることを強調したいと思います。
● 「歯科市場創造」(2)全身の健康へ
ふたつめのテーマは「全身の健康」を視野に入れたチャレンジです。パタカラ開発者の秋広良昭氏は、「歯科医療のターゲットを硬組織(C)と軟組織(P)に狭めず、口唇と咽喉を守備範囲に入れることで、呼吸、睡眠、嚥下、構音から脳血流、副交感神経から表情筋まで、人間の健康、アンチエイジングやQOLに直結する様々な可能性が見えてきます」と語っています。口腔を通じて広がる「これまでの世界とは違う」何かをつかみ、チャレンジしていただきたいと願っています。
「新しい市場」(Blue Ocean)は決して夢物語でも手の届かないところにあるものでもありません。あなたが一歩を踏み出すことで、確実に歯科界もあなたの医院も変わります。ともに新しい歯科医療・歯科市場を創っていきましょう。