「どこを向いているか?」
カルテ開示化「先送り」の示すもの
●カルテ開示法制化大きく後退
厚生省の医療審議会は7月1日、医療情報開示の焦点となっていた診療記録開示の法制化を「環境整備の状況をみてさらに検討すべき」として先送りする報告書を提出しました。これで、昨年6月厚生省が法制化を提言して以来、今国会での成立を目指して進められてきた情報公開の根幹、カルテ開示法制化の道は大きく後退しました。薬害エイズ事件を機に、世論の大きな高まりのなかで、ようやく緒についた情報公開の潮流はここでまた逆流に遮られました。
●日医・日歯の強行な反対
審議会では、患者側はもちろん日本病院会や日本看護協会など委員の過半数が法制化に賛成。強硬に反対したのが、日本医師会、そして日本歯科医師会の委員にほかなりません。日医は今年1月、「カルテ開示は医師の倫理規範のひとつであり、法制化になじまない」旨の「指針」を発表して「医師のモラル」の問題にすり替え、日歯の委員は「現段階では反対だが将来的に必要ならやむをえない」と情報公開にたいする貧困な認識を露呈しました。
●ディスクロージャーは世界の潮流
厚生省によれば、現在診療記録開示を認めている国は、1974年「連邦プライバシー法」を制定したアメリカ、イギリス(個人データ保護法)、カナダ・オーストラリア(最高裁判決)、スウェーデン(患者記録法)などがあります。フランスはさらに進んで、6月30日ジョスパン首相が、本人や家族が自由に閲覧できる法案を、来年初めに議会に提案すると語りました。各国の開示条件は様々ですが、ディスクロージャー(情報公開)を強く推進しています。日本のような後ろ向きの発想は世界の流れからみても論外です。
●主権はだれのものか
ここに、アメリカ病院協会が1973年に発表した「患者の権利章典」があります。「患者の権利を尊重することが、より効果的なケアにつながり、患者・医師・病院それぞれのより大きな満足に貢献する」という考えのもとに制定されたものです。曰く
- 患者は思いやりのある、丁重なケアを受ける権利を有する。
- 患者は、自分の診断・治療・予後について、完全な新しい情報を自分に十分理解できる言葉で伝えられる権利がある。……
全部で12章からなるこの権利章典は、医療者側の責任として、患者の人間としての尊厳と諸権利をまもることが、相互信頼の基礎であり、それによってのみ医療本来の目的が達成されることを説いています。
すでに、日本でも幾つかの病院、そしてコムネット会員のなかでも積極的にカルテ開示を実行している歯科医院があります。現在では個々の病院や医師の「モラル」として実行されている診療情報の開示を、明文化された国民の基本的権利として制定することに迷いは必要ありません。それは、医師と患者の新しい信頼関係を樹立する第一歩なのです。