《食支援サポーター》が街をゆく
「食べて治す」意識の広がり
いま、「食べること」「経口栄養」の重要性が大きな注目をあつめ、医療現場では医科歯科の垣根を越えた取り組みが活発化しています。
「食べて治す」を合言葉に2000年頃から始まった病院の「栄養サポートチーム」NST (Nutrition Support Team) には、当初は歯科の専門職が参加していませんでした。しかし、最近になってようやく歯科医師や衛生士の参加が「当たり前」になっています。
岩手県では2007年から県内13地区の歯科医師会中8地区で病院との組織的な連携が進められており、花巻市と北上市の歯科医師会では「全員参加」の号令の下に、敷地が両市にまたがっている県立中部病院のNSTに積極的に参加しています。
被災地で盛り上がる「食べる輪」
在宅や施設での地域医療でも、医療、福祉、教育、機械メーカーや食品、流通などの多職種が連携して「食」を支援する取り組みが広がりをみせています。
東日本大震災で多くの病院が流された津波の被災地では、患者は在宅や仮設での療養を余儀なくされ、医療も訪問診療を主力にせざるを得なくなりました。
松本歯科大の講師を辞めて長野から石巻に飛び込んだ雄勝歯科診療所の河瀬聡一朗所長(36)は、在宅や施設を回って診療する中で、老老介護で男性の介護者が食事作りに苦労している姿に接して、昨年地元の社会福祉法人とともに介護食づくりを核にした「男の介護教室」を立ち上げました。
そして今年3月、隣町の女川まで広げて食支援を推進する「食べる輪」の活動を開始。回を追うごとに輪が広がり、多い時には100人以上が集まって盛り上がっています。
河瀬氏は「被災地は高齢化率が5割を超えて超高齢時代の先取りをしています。口から食べることの大切さや歯科の役割の大きさを痛感しています」と語っています。
新宿に「食支援サポーター」誕生
訪問歯科診療のパイオニア五島朋幸氏(50)が立ち上げた東京の「新宿食支援研究会」(新食研)は、食に異状のある人を見つける《M》・適切な人につなぐ《T》・そして結果を出す《K》を合言葉に地域に密着して「食べる支援」に力を注いで6年目、これまでに59回の例会を開き、情熱あふれる実践と研究を続けています。
先月の研究会は、「食支援『広げる』プロジェクト 第1回『食支援サポーター』養成講座」。これまでの医療や介護の専門職中心の活動から、ひろく市民参加で「食支援」を広めていこう《H》すなわち「MTK&H」というステップアップにチャレンジしました。必須の研修を受講すると「食支援サポーター」さらに「食支援リーダー」として認定されます。
「食支援」とは「地域のなかで、口から食べたいという希望がある、または身体的に栄養ケアの必要がある人に対して @適切な栄養摂取 A経口摂取の維持 B食を楽しむ ことを目的として、リスクマネジメントの視点を持ち適切な支援を行ってゆくこと」です。
医科歯科連携から多職種連携、そして市民参加型へ。これぞ地域包括ケアシステムです。それは、日常生活からさまざまな障害「バリア」をなくしてゆく、バリアフリーの地域づくりそのものなのです。
「食」は生活の根幹。「食のバリア」をなくしていく原点は「自分の口で食べ、話し、呼吸する」口腔機能を守る歯科の役割であることを、あらためて胸にしっかりと刻んでおきましょう。