「食べること」を支援する
今年の「男の介護教室」開催
5月17日今年も宮城県石巻市で第1回目の「男の介護教室」が開かれました。この教室は、被災地雄勝町の歯科診療所の所長に赴任した河瀬聡一朗氏の呼びかけで、昨年6月に始められたもので、妻や家族を介護している男性に、介護食作りや介護のノウハウを支援するために、診療所と医療提携している社会福祉法人旭壽会が協力して開催。毎回十数人の男性が集まり、今年は市内2箇所で3回シリーズを予定しています。
超速「パッククッキング」の技
今回の教室は、昨年好評だった茨城県笠間市「はなわ歯科」院長塙章一氏による「パッククッキング」の講話と調理実習。妻で副院長の由紀子氏が調理指導に加わり、高野豆腐と野菜の煮物、かぼちゃの煮物、蒸し鶏、白菜とバラ肉の重ね煮、蒸しパンなど9品を1時間足らずで作り試食会を開きました。その早業と味の良さに参加者は「またひとつ覚えて自信がついた」「これからの人生の糧としたい」と感想を述べていました。
「食」にバリアーを作らない
調理実習に先立って塙氏が行った講話では「食べること」の意味や18年に及ぶ笠間での経験が紹介されました。氏は、動物にとっては「食べられる」ということが生きる基本であり「すべての動作は食べることにつながっている。私たちは『食べる流れのなかにバリアーを作らない』ために様々な角度から取り組みを行ってきた」と話しました。
きっかけは1997年に始まった笠間市の寝たきり高齢者への訪問歯科保健事業。治療が受けられない高齢者や入れ歯を外して食べられない状態の高齢者が多い現実に接して、塙氏は「口にトラブルがあっても美味しく食べられる『義歯食』を広めたい」と、一緒に回った歯科衛生士や仲間の管理栄養士とともに「歯科保健三人衆」として活動し、義歯食の試食会や歯科医師会主催の公開講座開催へと輪を広げていきました。
人にやさしい笠間焼と「楽食」
公開講座のタイトルは「食をKeyWordとしたヘルスプロモーションの展開」。2000年から10年間続き、パッククッキングやユニバーサルデザインフードの試食会をはじめ、県の工業技術センターや陶芸作家の協力で、縁に返しをつけた皿や持ちやすい形状のマグカップなど「人にやさしい笠間焼」を作るなど、活動は「食べること」を軸にした、多職種連携で生活環境の改善や「人にやさしい街づくり」に広がりました。
また「義歯食」を、口や体にハンデがあってもなくても、家族と一緒に楽しく食べられる食事「楽食」に発展させ、介護や生活習慣病の「予防食」、「健康志向食」と位置づけて普及を進めています。趣旨に賛同する市内の本格フレンチレストラン「モン・ラパン」では「楽食」メニューを提供して好評を博しています。
介護指標に「0コンセプト」応用
塙氏は夫妻で実践しているDr.ビーチが提唱する「0コンセプト(零の概念)」を介護に応用してSI indexを「食べる能力」の指標に活用しています。「健康」を0、「完全に医療に依存している状態」をマイナス1として、指標に即して口腔ケアや食材の選択、調理の工夫、食べる姿勢、リハビリや食器の選択など、適切な支援を行い、目標の依存度0の「健康」状態をめざしています。
「食べること」はQOL(生活の質)を維持する基本です。その意味をみんなで考え、力を合わせて環境も能力も高めていく。支援のやり方も道筋も様々です。できることから「一歩」足を踏み出していきましょう。