健康寿命に挑む2つの大会
第32回「ネコの会」の熱気
新年度を前に今年も注目すべき大会に参加する機会を得ました。まず3月1日神戸で開かれた第32回公衆歯科衛生研究会(通称「ネコの会」)。歯科を中心として医科・介護・福祉・教育・保育・公務員等多方面から昨年の1.5倍の200人が集まって「口腔の健康」「食べること」を軸に熱気に満ちた研究と実践の報告を行いました。医療が「病院から地域へ」そして「医科歯科多職種連携」へと拍車がかかる中で、30年以上地域社会のあらゆるステージを対象に健康づくりを進めてきた同会にスポットライトが当てられているのはまさに「時代の流れ」といえるでしょう。
(詳報はP10「Oral往来」をご参照ください。)
糖尿病専門医からのエール
今回の目玉は「世界で一番歯周病にうるさい糖尿病専門医」松山市の西田亙氏による講演。「糖尿病専門医が語る歯科医療の素晴らしさ〜歯科ならではの歯点と歯援〜」と題して、歯科に対して熱烈なエールを送りました。西田氏は歯周病治療によって糖尿病患者が劇的に改善するのを目の当たりにして口腔の大切さに目覚め、「目からウロコ」の覚醒をしたと語りました。歯周病が良くなると血糖値が下がり、正常な味覚が戻り、食事が美味しくなり、運動したくなる。結果糖尿病の改善に繋がるというプロセスに確信を抱いたのです。
西田氏は「歯科には医科の人間では到底知りえない歯科ならではの視点(歯点)と歯科にしかできない支援(歯援)がある。糖尿病は社会病。その病気を未然に防ぐことができるのは歯科医療のみ」と言い切り「インスリンよりも歯周病の治療を!」と呼びかけました。西田氏は医科歯科連携の旗手のひとりとして今後歯科界に大きなインパクトを与えるでしょう。
超高齢に挑む世界会議2015
3月13〜15日東京国際フォーラムにおいて「健康寿命延伸のための歯科医療・口腔保健」をテーマに「世界会議2015」が開かれました。2030年には5人に1人が75歳以上という「未知の時代」を迎え世界に先駆けて超高齢社会に突入する日本から、その課題や取り組みを世界に向かって発信する歯科界の意気込みに期待しました。
注目したのは、時代を先取りして地域医療に取り組んでいる研究者や実践家の講演です。日本歯科大学教授で口腔リハビリテーション多摩クリニック院長の菊谷武氏は「できること」と「していること」の乖離の現実をふまえ多職種連携による「口から食べる」支援とともに患者のナラティブ(物語)を大切にするケアのありかたを提唱しました。
また静岡県の米山歯科クリニック院長の米山武義氏は、1979年から高齢者歯科医療に取り組み、口腔ケアによって高齢者施設入所者の発熱や肺炎を激減させた実績をもとに、「いかなる状況下にあっても口腔疾患の予防や改善は可能」と語り、人々が人生を全うするまで寄り添う「人間の尊厳を守る歯科医療」の役割を強調しました。
健康寿命延伸めざす「東京宣言」
「世界会議2015」は最終日に「健康寿命延伸のための歯科医療・口腔保健に関する『東京宣言』」を採択しました。その前文に次の一文が記されていたことに注目しました。
「生涯にわたる口腔の健康は基本的な人権であることから、歯科医療・口腔保健はすべての健康政策に含まれ、提供されるべきである。」
多くの「患者の権利章典」にも共通するこの理念こそ世界の政府や医療界が立脚すべき原点を明瞭に表しています。これこそが「世界会議」を開催した日本の憲法の精神なのです。