はじまりは〈患者参加〉
医療の〈シフトチェンジ〉
急ピッチで進む高齢化、病院・施設から在宅へという時代の流れ、訪問診療や包括的医療の必要性…。その全体状況はわかる。歯科医院も増える一方で今までと同じことをやっていてはだめだ、とも思う。しかし、何をどのようにやればよいのか。個人の開業医にできることは何だろう…。
動き始めた在宅シフトの政策や診療報酬改定のなかで焦りを感じている人も少なくないのではないかと思います。地域の高齢化の状況や医療体制、歯科医師会の実情も一通りではなく、様々なハードルが立ちはだかっていることも事実です。
しかし、まず必要なのは冷静に現状を捉え、現在から将来に向けての日本や地域社会の進む方向をつかむことです。そして歯科の役割に確信をもって、社会のNEEDSの変化に応えるために勇気をもってシフトチェンジしていきましょう。
「歯科の役割」が変わった?
歯科に対するNEEDSの変化、それは「患者さんのNEEDS」の変化にほかなりません。長い間歯科のターゲットは口腔内の硬組織と軟組織の2大疾患、虫歯と歯周病でした。そしてそれを治す技術を高めること(補綴)に比重がかけられ、研鑽や投資が続けられてきました。医療のプロフェッショナルとして病気を治す腕を磨くことは現在から未来にかけても必要不可欠なことです。現在の中心課題は、それをふまえて、第一に発症・再発の「予防」、そして「咬合」と「口腔機能」の向上をめざし、咀嚼・嚥下・呼吸・構音など全身の健康やQOLに直結する役割を果たすことです。
そのために、歯科をはじめ他の医療・介護・福祉関係者と力を合わせ、地域に密着して患者さんの健康増進のために行動することが求められています。「歯が多い人は元気」や「口から食べて元気になる」例は日常的になりました。「歯科の役割」が変わったのではなく、それが歯科本来のポテンシャルなのです。
まず「何から始めるか」
求められる地域医療、包括医療は文字どおり「地域」が相手です。協力・共同、住民参加で健康づくりを進める仕事です。視野を広く持ち「行動を起こす」「外に出る」というシフトチェンジは不可欠です。しかしその前にしなければならないことがあります。実は、医院にとって初めに「共同すべき相手」は来院患者さんなのです。医療は患者さんとの共同作業。地域の「かかりつけ」歯科医院として「患者参加」で健康づくりに最善を尽くすことが出発点なのです。
かなめはコミュニケーション
1本の歯の治療で来院した患者さんの「丸ごとの健康」のため歯科の力を総動員しましょう。診査、治療、定期メインテナンスのサイクルにとどまらず、咬合、姿勢、呼吸から生活習慣、食事指導まで、患者さんをまるごと健康にするための働きかけをすること。その延長線上に「地域」がみえてくるはずです。たとえば、自院の患者さんで来院できなくなった人、中断したままになっている人は、もしかすると病気になったのかもしれないし、寝たきりになっているかもしれません。インプラントの患者さんはなおさら心配です。その患者さんへのアプローチに不可欠なのが徹底した情報提供とコミュニケーションにほかなりません。リコールやアプローチの方法も、往復はがきや電話、メールなどとことん工夫して「双方向」のコミュニケーションをとるなど、できることは山ほどあります。医院の側からのアプローチを強め、地域のかかりつけの患者さんと最後まで「一生のお付き合いをしたい」という思いを伝えていきましょう。