「口臭」のむこうに見えるもの
●歯科の「吉夢」めざす
前回、「ZAITEN」と「週刊ダイヤモンド」を紹介し、歯科に対する世間の厳しい評価のなかには、逆に「悪夢」を「吉夢」に変えるヒントがあると書きました。インプラントにしても矯正、審美治療にしても、説明責任を果たしインフォームド・コンセント(チョイス)という、納得と合意のもとに最善を尽くして治療するなら、医療事故やトラブルは防ぐことができるはずです。問題は、その治療、広く言えば歯科医療の先にどのような患者と医療者の関係を築き、そしていかなる「夢」を実現するのかということです。
●口臭学会で考える
7月中旬、鶴見大学で「口臭への対応;基礎から臨床まで」をテーマに日本口臭学会(JAMS)の第4回学術大会が開催されました。基礎から臨床までの幅広い研究と実践が披露され、多くのことを考えさせられる機会となりました。
口臭の原因は様々で発生由来も口腔内か身体全体かに分けられますが、口腔と全身のかかわりを典型的に表している症状といえます。しかしこれまでの歯科教育では口臭の原因のほとんどが口腔の疾患(口腔粘膜疾患やドライマウス、歯周病)や機能低下に起因するとされ、対応も口腔衛生や歯周病対策が中心で口腔清掃やプラークコントロールが有効と考えられてきました。「歯科の領域」からすればごく自然な対応かもしれません。
●喉を視野に入れる
しかし、せっかく口腔と全身とのかかわりの玄関に立っているのに、歯科の側からその原因を「口の中」だけに限定するのは実に「もったいない」話で、隔靴掻痒のもどかしさを覚えます。口腔には歯と歯茎と舌があり、喉につながり、気管、食道へと繋がっています。「繋がっている」のです。歯周ポケットを広げると赤ちゃんの掌ほどの面積ですが、喉、ワルダイエル咽頭リンパ輪の襞を広げると実に畳12畳もの広さになるといわれ、それはそのままバクテリアが繁殖する面積の違いとなり、口臭の大きな要因となっています。
最近、扁桃・咽頭・上咽頭の病巣感染が腎臓病やリウマチ、アトピー、大腸炎などの原因になっていることが指摘され、医科の側から「全身から口腔へ」の関心がかつてない高まりをみせています。歯科の側からのアプローチを切望する所以です。
●死因の第3位「肺炎」
2011年日本では肺炎による死亡者が年間12万人を超え、脳血管疾患を抜いて、ガン(28.5%)、心疾患(15.5%)に次いで死因の第3位(9.9%)に浮上しました。肺炎で亡くなった人はその97%が65歳以上の高齢者。主な原因は細菌で、3分の1から4分の1が口腔内や皮膚に常在している肺炎球菌と考えられています。対策にはワクチン接種がすすめられていますが、それ以上に、身体の免疫力のアップとともに、口腔ケアと喉の感染対策、そして誤嚥を起こさない口腔機能訓練が決定的な役割を果たすと考えられます。
口の中を覗いて「口臭」の向こうに見えてくるもの、それは扁桃・咽頭・上咽頭を視野に入れた「命を守る歯科医療」であり「QOLを高める歯科医療」です。そしてさらにその延長線上に「生きる意欲=希望」を育む歯科の役割が浮かび上がってくる。その「夢」は遠い将来ではなく、ただいま現在臨床現場で実践可能なテーマです。「吉夢」に向かって、やるかやらないか、いつやるか?やるなら今でしょ。