生き残りの「生命線」
●『生き残る歯医者は患者が選ぶ』
10月に刊行された『生き残る歯医者は患者が選ぶ』(財界展望新社)。著者はNPO法人「地域医療の連携を進める会」理事長で、苦情・クレームアドバイザーの関根眞一氏。歯科医院をとりまく環境の激変に対応して歯科医院が「生き残る」ために何が必要かを分析、提示する内容で、多くのヒントが学べる1冊としておすすめです。
関根氏は患者の要求を整理して「生き残る歯科医院10カ条」を列挙しています。
- 患者のために「医療安全」に取り組む
- 「院内感染症対策指針」を示す
- 教育された良いスタッフは患者の気分まで変える
- 歯科医師は自己研鑽の技術向上をアピールする
- 院内施設 / 機器の紹介
- 理解できるインフォームドコンセントで、患者の納得と同意を
- 苦情は信頼の証、苦情対応の失敗で患者を失わない
- 院内ミーティングで、患者の共有情報を持つ
- 高齢の患者は往診を望む
- 治療終了後でも、管理インフォームドコンセントを実施する
●「医療安全」の確保は医療の前提
関根氏は第1条の「医療安全」について、多くの歯科医師は罰則規定がないのをいいことに「医療安全の義務化」を反故にしている、と批判しています。医療事故とともに危険極まりない院内感染ひとつをとってみても、日本歯科医学会の調査によると、ハンドピースを患者ごとに滅菌しているのは31.4%にすぎず、同じく患者ごとにグローブを交換しているのも34.7%という数字です。先日参加したLDA(Leading Dentists Association)の講演会で、アメリカでは、グローブはもとよりマスクも患者ごとに交換することが法律で義務付けられ、ほぼ100%実行されているという報告があり、日本の現実との乖離に驚かされました。
●「超高齢社会」における歯科の課題
第9条「高齢の患者は往診を望む」は、社会環境激変の最大の要因である「人口減少」少子高齢化の進行への危機感をにじませています。日本はすでに高齢化率(65歳以上の人口)が21%を超えて「超高齢化社会」に突入しており、さらにわずか13年後の2025年には31%に達すると推定され、全ての産業や社会サービスは対策を急がなければなりません。通院できない患者、在宅、施設で暮らす高齢者の増加に対応する往診・訪問診療のできる歯科医院づくりを進めること。具体的には「在宅療養支援歯科診療所」の申請をして体制づくりをすること、さらに医科や介護サービスと積極的に連携して高齢者の健康を守る取り組みが不可欠です。例えば、インプラント治療をした患者さんが通院してメインテナンスすることができなくなったときに、どのように対応するのか、準備と心構えは大丈夫でしょうか。
●「生命線」は信頼関係の構築にあり
経済や社会構造の大きな変化をふまえて、また、診療報酬改定など、医療政策の方向性を読みとり、自院の診療内容、医療サービスの内容と体制をどのよう作り上げていくのか、前回も述べましたが、今後5年後、10年後を見通した医院経営のマネジメントが一段と重要性を増しています。と同時に、いかなる激変にもたじろがない医院経営の根幹は、「患者さんとの信頼関係」にあります。関根氏も「生き残る歯科医院の最大の武器は『患者の信頼』である」と述べています。それは、一朝一夕にできるものではありません。医療安全を徹底し、患者さんの健康を願い「必要とされる医療サービス」を、コツコツと手を抜かずに提供する姿勢、それこそが信頼の基礎であり「生き残る」医院経営の「生命線」なのです。