歯科界へのメッセージ

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コムネット会員情報誌「Together」に掲載している、弊社社長・菊池恩恵によるコラム「TRIANGLE」です。

ぶれない〈軸〉をもって

●歯科医療費は2兆5千億円

日本の国民医療費は、2009年度も前年比1兆2千億円増加して35兆3千億円。7年連続で過去最高を記録した。そのなかで、歯科医療費は230億円(3.5%)減少して2兆5,473億円(全体の7.2%)。医療費の増加に反比例する歯科の構造がさらに顕著になっている。「日本歯科新聞」の推計によると、1日あたりの患者数は全国で115万人、それを歯科医院数6万8千で割った1歯科診療所あたりの患者数は、1日平均16.9人(2008年9月)である。

この数字は、厳しさを増す歯科医院の経営実態の一面を反映しており、今後もこの傾向は続くだろう。しかし、その中にも必ず次の時代をつくる契機となるプラスの側面が存在する。歯科界は「医療費減少」の底に流れる新たな可能性の水脈を見出さなければならない。

●むし歯は10年間で2分の1に

歯科医療費が減少している要因の一つに疾病構造の変化があげられる。2009年度の「全国学校保健調査」によると、中学1年生(12歳)の永久歯のむし歯の数(DMFT)は1.40本(前年比-0.14本)で、10年前(1999年)の2.92本の半分以下、25年前(1984年)の4.75本と比較すると、実に3分の1まで減少している。他の世代においてもむし歯は確実に減少し、80〜84歳で自分の歯を20本以上有している人が20%を超えている(21.1%・平成17年度歯科疾患実態調査)。それはこの間の学校や保健所、メーカーによる教育、CM効果もあるが、それ以上に、歯科医院による地道な努力の結果であり、日本も長年のドリル&フィルの歴史から脱却しつつあることを示している。「むし歯予防」の象徴である歯磨きの出荷額は5年連続で前年を上回り、高価格品が好調で、電動歯ブラシも売れている。歯科のターゲットはこの20年で確実に「美」と「機能」すなわち「健康」にシフトしている。

●「経済的理由」による受診抑制

他方、歯科医療費減少の理由のひとつに経済的理由による「治療中断」や「受診抑制」があり、孤独や貧困による「歯科難民」が増えていることも現代の大きな特徴である。

青森では、患者の経済的理由により過去1年間に治療を中断した経験のある歯科医師は68.7%にのぼり、福島でも過去半年以内に治療を中断した歯科医院が6割に達し、57.3%の医療機関で「受診料の未払い」を経験しているという(保険医協会による受診状況実態調査)。

こうした「光と影」をもつ歯科医療の狭間にあって、個々の歯科医師、そして歯科医院はどこによりどころを求め、何をめざしてゆけばよいのか、医院経営の「軸」を持つことがいま一番大切なことである。

●潜在患者と需要へのアプローチ

疾病構造の変化は、国民の「意識の変化」をともなっているが、しかし日本では、歯科はまだ「痛くなってから行くところ」という意識が大勢を占めている。62.7%の人が口腔に異常を感じているのに「治療中」はわずか11%(日本歯科医師会雑誌Vol.21)。異常を感じている人があと10%来院すると、前述の推定患者数で換算して100万人、1歯科医院あたり平均15人来院者が増えることになる。

また、定期メンテナンス通院が子どもは100%、大人で8割のスウェーデンなどに比べて、日本では第1次予防を目的に歯科医院に来院(検査・健康診断、PMTC等)するのは、わずか全体の0.64%に過ぎない(厚労省:平成20年患者調査の歯科傷病分類別推計患者数)。国民の意識がさらに高まり、予防のために歯科医院に通うようになれば、来院者は飛躍的に増加するだろう。それが「歯科の水脈」なのである。

● 「心に響く」コミュニケーション

潜在患者、潜在需要へのアプローチは、国民の健康に責任をもつ政治、歯科のリーダーがグランドビジョンを掲げ、率先して取り組む課題である。しかし「誰かにやってもらう」依存的発想や「誰かがやってくれるはず」という他力本願ではなく、自ら行動を起さない限り、何も変わらない。いま目の前にいる患者・来院者、そして地域に対する情熱をこめた情報提供と心に響くアプローチがすべてである。

 「水脈」に働きかけ、健康を守る「信頼」のコミュニケーションを築く、これが、これからの歯科医療と歯科医院経営の要なのだ。そこに〈軸〉を定めてぶれないこと、経営向上も歯科の未来も、その延長線上にある。自信をもって進んでいこう。

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