歯科の〈真価〉を発揮するとき
パタカラが拓く高齢者医療の未来
●地域医療崩壊の危機進行
10月17日、横浜の第48回全国国保地域医療学会に参加しました。小泉内閣以来の「改革路線」の嵐のなかで、地方の医師や看護師不足が深刻化し、地域医療は崩壊の危機にあえいでいます。また本年4月にスタートした「後期高齢者」医療保険制度がもたらした混乱と深刻な事態、さらには2012年から「社会的入院」の削減を目的に介護療養病床13万床の廃止、医療療養病床10万床削減の方針が打ちだされ、今後多くの「医療難民」が出現することが危惧されるなど、《いのち》をめぐって国中に不安が増大しています。地域に根を張る医療人は住民の健康を守るために必死に努力しています。しかしそれも限界で、マスコミでもひんぱんに地方の医師や看護師たちの苦悩が報じられています。
●驚きの遠野「吉祥園」実践
学会では、東北・岩手の医療現場から、この閉塞状況を突破する実践が報告されました。遠野市宮守歯科診療所長の深澤範子氏と鎌田仁氏(同診療所勤務歯科医師)が、遠野市の養護老人ホーム「吉祥園」の入所者17人と認知症グループホーム入所者7人に行ったM(メディカル)パタカラによる口腔筋・表情筋ストレッチの取組みを発表。参加者に驚きと感動を与えました。
車椅子にやっと座れる状態でオムツ生活だった要介護3の85歳の女性が、実施4ヵ月後日中のオムツがはずれ車椅子での自走が可能になり、介護度2に改善。また、コルサレフ症候群で移動や移乗が困難、激しくむせて摂食も困難だった68歳の男性(要介護4)は食事も歩行もスムースになり介護度が要支援1に。要介護1の84歳の女性は、表情も暗く消極的で腰痛があり毎日ボルタレン坐薬を使用していたのが、積極的になり腰痛も改善しボルタレンが不要に。介護度も要支援2 or 要介護1に改善。等々「吉祥園」の17人中7人が介護度が改善し、それ以外の人も全員明らかな効果が現れたのです。施設の稼働率も風邪や肺炎による入院がほとんどなくなり実施後は95〜100%の稼働率という実績をつくりました。本来「不可能」とされてきた要介護度の改善という成果に参加者の驚きは甚大でした。「やったことは1回3分、1日3回、パタカラをくわえてもらっただけです」と深澤氏は自信に満ちて語りました。
●パタカラによる脳の活性化
続いて登壇した鎌田氏はグループホームのとりくみを紹介しながら「パタカラエクササイズによる右側前頭葉の脳血流の増加が全身機能の改善につながっている」と解説。口輪筋とそれに連なる表情筋に負荷を与えることで脳の活性化、とりわけ「脳の司令塔」である前頭葉の機能が賦活されることによる改善効果が絶大であると語りました。パタカラ開発者の秋広良昭氏は、会員情報誌Together2008年9月号で「障害のある人や高齢者の治療の際には、先ず脳組織の萎縮や壊死があることを前提としてMパタカラで口唇エキササイズをし、脳の改善を図り、筋機能を改善させてから治療を進めるべきです」と述べています。「脳」が最大のターゲットなのです。
●歯科の〈真価〉を発揮する
深澤氏は34人の市民(市職員)のパタカラ実践を行った経験もふまえて「Mパタカラによって口腔周囲の表情筋を鍛えることがあらゆる人の健康度をアップし介護予防にもつながり、医療費の軽減も図れるのではないか」とまとめました。歯科のターゲットはカリエスやペリオだけではありません。咽喉や唇、それに連なる表情筋を視野に入れることで、全身の健康、言い換えれば医療の中における歯科の役割が極めて大きくなります。そして、それは導入するために高額の機器や技術的訓練も不要です。
行動に移せばかならず変わります。口腔から全身の健康へ、その大きなカギを私たちは握っているのです。そして、その先には患者さんの健康・QOL向上と医院経営の飛躍という両輪がしっかり回る仕組みが用意されています。いまこそ歯科の〈真価〉を発揮するときです。確信をもって前進しましょう!