長寿を喜び励ます社会に!
●嘆きと憤り「これは姥捨て」
4月1日、75歳以上の高齢者等1300万人を対象とした「後期高齢者医療制度」(「長寿医療制度」)がスタートしました。制度の大転換にもかかわらず、その概要が周知されず、無収入でも保険料は免除されない、有無をいわさず年金から天引きという強引なやり方に国民の憤りが噴出しました。戦争の時代を生き抜き、復興に尽力し、経済成長の礎となって働いてきた人々に対する冷たい仕打ちだからです。パタカラによるリハビリで有名な東大名誉教授の多田富雄氏は「姥捨てですね。これは人間の政治じゃない」「『老兵連』を集めて反乱をおこしたいぐらい」と怒りを露わにしています。また、保険証が届かない、保険料の計算を間違える、というミスも続発。宮崎県医師会は問題点の多い包括的「かかりつけ医」制度を使わないことを決定するなど、制度の見直しを求める声も高まっています。
●超高齢社会にどう立ち向かうか
現在、日本の65歳以上の高齢者は人口の21%、75歳以上の「後期高齢者」も10%に達する高齢社会、2025年には高齢化率30%、「後期高齢者」が18%に達すると推定されています(「高齢社会白書」2007年)。今回の「後期高齢者医療制度」は、増え続ける医療費の削減という財政的理由によるものですが、しかし、単純に経済原則を持ち出して国民を失望させ、不安に陥れる前にやるべきことがあるはずです。超高齢社会に向かっての健康・医療のビジョンを示すことです。それは、安心して老後を送り最期の時まで健康を維持しながら人生を全うできる希望を与えることです。それは、同時に医療費も削減できる道でなければなりません。はたしてそれは可能でしょうか。
●半数が「自宅で治療を受けたい」
4月17日付の「中日新聞」は、愛知県のアンケートで「入院患者の約半数が在宅での治療を望んでいる」と報じています。同じように、最期を迎えるときも「自分の家の天井を見ながら別れを告げたい」と願うのが人間の自然な思いではないでしょうか。同じ「在宅診療」を唱えるにしても、「治る見込みがないから」と病院から追いたてるのと、患者の人間としての尊厳を守るために在宅治療を実施するのでは発想が180度異なります。家族や地域ぐるみで健康管理、健康維持活動を展開し、予防・治療の両面から医療費・給付費を抑制していくのが本来の医療のビジョンであるべきだと考えます。
●口腔筋・表情筋の役割を前面に
会員情報誌・Together5月号の特別寄稿「長寿医療保険」のなかで秋広良昭氏は、歯科訪問診療に求められる思考と姿勢として「先ずは患者家族が本当に望んでいる症状を改善」させることと述べています。在宅患者・家族の願いは、よだれが止まる、笑顔ができる、会話ができる、むせないで飲食ができる等「あたりまえの」生活行動、ADLの向上にあります。「訪問歯科=口腔清掃と義歯」という構図を脱却して、患者さんと家族がもっとも願っていることに応えるこ と。それが「人間としての尊厳を重視した治療」なのです。
口腔筋・表情筋のエクササイズは、従来「治らない」と思われてきた脳疾患によるこれらの機能障害を改善し患者・家族に喜びを与えています。歯科訪問診療によってQOLが向上する、それが新しい「後期高齢者歯科医療」として脚光をあびる時代がきています。