「予防」の灯を消すな
●97%が「診療に支障」の事態に
4月の診療報酬改定から半年、その影響がボディブローのように医院経営を圧迫しています。臨床現場では「文書による説明で患者さんとの会話が活発になった」という声がある反面「混乱状態」という現実も目にしました。
当社が行った改定直後3ヵ月間のアンケートでは、会員の医院では「前年同等」あるいは「患者数が増加している」という回答も多く、その健闘を力強く感じました。
しかし日本歯科医師会等の調査をみると、「診療に支障をきたしている」という医院が97.1%(日歯緊急アンケート)、「8割が点数減少」(日本歯科新聞)、96.5%が「マイナス改定の影響がある」(山形保険医新聞)と医院経営への悪影響を訴えており、「実感として点数1割減」という声を多く聞きました。
厚生労働省の「医療費の伸び率」(速報値)によると、4・5月の歯科医療費は、昨年と比べて2.8%減少しています。
●「継続管理」後退で予防赤信号
今回の改定による歯科医療への影響のなかで私たちがとくに重大視しているのが、「継続管理は1年まで」と制限され、予防歯科の大きな障害となっている問題です。
この7月、沖縄・宮崎・鹿児島3県の歯科医師会が合同で行った調査によると、回答した歯科医師の86.7%が「患者にとって歯の健康が守られる良い治療が行われない」と答え、68.5%が「歯科検診が制限されたことでよりよい歯周治療が行えなくなった」と回答しています。
せっかくこれまで歯科医院でのメインテナンスと検診の重要性を訴え続け、予防の意識が広まってきたのに、わずか2年でそれに赤信号をともす改定の「真意」がどこにあるのか、と多くのドクターから憤りの声があがっています。(コムネット運営ホームページ「でんたるらんど」の「歯医者 釣然草」をご参照ください)。
●「患者・国民」の視点を欠いている
今改定は、「かかりつけ初診」導入をめぐって元首相に1億円の闇献金を手渡して断罪された「日歯連事件」に対する「制裁」的意味合いの改定と評されてきました。確かに、金で政治を動かし「か初診」で業界の利益確保をはかろうとした行為の背景には「患者さんのために」という視点が欠落しています。
それに対してこの改定がいかに国民の健康増進と口腔衛生の向上に寄与するものかと考えてみると、残念ながら同様に「患者・国民」への視点が欠如していると言わなければなりません。裏の駆け引きで特定の利益を擁護したり、場当り的に政策が決められる日本の政治に翻弄され、犠牲になるのは常に患者・国民なのです。
●「予防歯科」の灯を消してはならない
10月1日から「医療費の内容のわかる領収書」の発行が義務づけられています。「煩雑」「厳密すぎる」という理由で発行を控える医院が続出し、医療費はさらに低下するだろうと予測されています。しかし明細つきの領収書発行は一般の業界では「あたりまえのこと」であり、ガラス張りの明朗診療の前提として前向きにとらえるべき性格のものです。
それ以上に、いま歯科界が総力で取り組むべき課題は、「予防」「継続管理」という歯科医療の明日にかかわる第一義的課題を国の医療政策の根幹に据えさせるという戦略的な課題ではないでしょうか。
点数の減少をどう食い止めるかという「守り」の姿勢から、本当に患者さんの健康に寄与し、医療経済的にもプラスに作用する(即ち医療費削減につながる)方策を、攻勢的に国民に対してアピールすべきです。
歯科医療人の誇りをかけて今こそ「予防の灯を消してはならない」「予防に取り組む意欲を育てる再改定を」の声をあげるときではないか。私たちはそう考えています。