「小泉劇場」舞台の陰で
●「ワンクリック選挙」自民大勝
「郵政民営化の是非を問う」と総選挙に打って出た小泉首相は、選挙期間中ただひたすら「賛成か反対か」だけを、数秒の短いフレーズで叫び続けました(大手広告代理店が演出した秒単位の「サウンドバイト」戦術)。その「小泉劇場」では、医療改革も年金問題も、消費税も、靖国や憲法も、山崎拓氏に「起訴適当」との判断が示された日歯連事件もすべて弾き飛ばされました。7月の東京都議選では自民に迫る勢いだった民主党も殆ど「出番」がなく、自民党は296議席という単独安定多数を獲得し、与党で議席の2/3を占める予想外の大勝で幕を下ろしました。
確かに「郵政民営化」に対して国民はYesの意思表示をしたのかもしれません。しかし「改革の突破口」の次に必ずくる増税や負担増の政策まで「白紙委任」したわけではないのです。しかし案の定、すぐに消費税増税の声があがっています。小泉自民党に「ワンクリック」投票した国民が「こんなはずでは」と再三の政治不信を招くことのない政治を期待します。
●予防介護に「口腔ケア」導入
「小泉劇場」の陰に隠れていましたが、厚生労働省は「予防」の概念を介護保険に導入する「新予防給付」の検討を開始しました。提供されるサービスとして想定されているのは、運動機能向上(筋トレ)、栄養改善(食事指導)、口腔ケアの3テーマ。要介護度の軽い人に集中的に提供され、重くなるのを防ぐことで介護保険の給付を抑制するという意図が読み取れますが「予防で元気な老後」の視点が加えられることは大きな前進といえます。
ADLが低下し、寝たきりになるより、自分の足で歩き、また自分の口から食べることがどれだけQOL向上につながるかは、会員情報誌・Together 2005年6月号でも紹介した、東京歯科大学野呂明夫講師による国会議員向け口腔リハビリの講演でも強調されていたことです。今年100歳以上が2万5千人を超え、高齢化率20%、20年後には4人にひとりが高齢者になる日本が率先して取り組むべき課題であり、「21世紀を『口腔リハビリ』の時代に」という声をさらに強め、霞ヶ関・永田町を動かしていきましょう。
●インプラントの混合診療OK
もうひとつ、歯科界でも賛否両論が渦巻く「混合診療」にも新しい動きがあります。厚労省は、現在「高度先進医療」として例外的に大病院でのみ認められている「混合診療」を、医療機関の規模による規制を撤廃し、医療技術ごとの要件をクリアすれば、診療所でも同様の治療が受けられるようにする、としています。歯科の場合、可撤式の義歯が安定しない場合のインプラントが対象となり、相当数の医院が対象になると思われます。患者さんにとって選択の幅が広がり治療しやすくなるのは間違いありません。
2003年の国民医療費が発表され、全体で31兆5375億円(1.9%増)、歯科医療費は2兆5375億で前年比マイナス500億円(▲1.9%)という結果でしたが、「混合診療」導入は医療費削減、診療報酬圧縮をめざす政府の方針に対してどのように影響するか注目されます。
●じっくり考えすばやく行動
激しく動き、いっそう混沌とした様相を示している政治・経済状況のなかで、私たちには日々その変化に向き合い判断すべき課題がつきつけられています。そのなかで、院長が拠って立ち、決断すべき立脚点をどこに据えるか。「ワンクリック」ではなく、しっかりと患者さんの笑顔と健康にとってプラスになる道を考え、選択し迅速に行動する。その意味で、まさに院長の診療ポリシーが真価を発揮すべき時といえるでしょう。