「勝ち組」から「価値組」へ
● 「違い」をうむ「違い」に注目
最近、歯科界で話題の人物がいます。ジェームス・スキナー氏(41歳)。19歳で来日し、米大使館や企業で働き、起業。フランクリン・コヴィーの『7つの習慣』を翻訳し、100万部以上のベストセラーにした人物です。現在「成功コンサルタント」として流暢な日本語を駆使して、劇的に「人生を変え」「成功」へ導く実践的セミナーを開催しています。下町の、貨物列車とパチンコ屋に挟まれた4畳半のアパートで一ヵ月5万円で生活していた彼が、文字通り「億万長者」になれたという成功体験をもとに構築した「成功の9ステップ」セミナーは評判をよび、参加者には歯科医師の姿も目立ちます。そのエネルギッシュなセミナーは、成功者と失敗者の「違い」をもたらす「違い」をはじめ、人間としての生き方や経営のヒントに満ちています。
●決断とは「決めて」「断つこと」
患者さんを増やしたい、経営を飛躍させたい、分院展開をしたい、新しい分野に取り組みたい、等、院長の希望や願いは様々で「成功」の概念もまた多様です。まず大切なことは、そうした漠然とした「願い」の焦点をしぼり「どうしてもこれをやる」と決断すること、即ち「意思決定」を下すことです。待っていて、或いは誰かがやってくれると依存していて望みが叶うほど世の中は甘くありません。とくに5年前「医療ビッグバン」がスタートし、歯科界にも競争原理の波が押し寄せています。昨年の歯科医院の倒産は18件、医療機関全体49件の4割近い数字です(帝国データバンク7月14日)。一方では、同じ歯科医院なのに増患増収の繁栄医院が存在する、この違いはどこにあるのか。成功医院に共通するのは「明確な目標」を定め、謙虚に自ら変わろうと「決意」し、それをやりきる情熱に溢れていることです。
● 「何でもいい『違うこと』をやれ」
人生でも医院経営でも同じ。成長をもとめ、前進したいのなら、自ら進んで何かをしなければなりません。しかし「やる」にしても、これまでと同じことをやっていたのでは、これまでと同じ結果しか生まないことは明らかです。例えば、本格的に予防に取り組もうと思うなら、これまでのTBIとフッ素塗布で終わらせずに、唾液検査・リスク診断を始める、口腔内写真を撮りデータをつくる、歯科衛生士を雇用する、予防専用ユニットを準備する、研修に参加してスキルアップと院内の意思統一をはかる、等が課題となるはずです。それでもなかなか広がらないとすれば、患者さんへのインフォメーションを強める、イベントを開く、予防の会をつくる、「むし歯ゼロ」表彰をする…。院長が望む「結果」を生むまで、あらゆる角度から、アプローチを変えてやり続けること、それが成功につながります。
●自分の夢に仲間の夢を重ねて
院長には歯科医師として、経営者として、チームリーダーとして、スタッフ、従業員にはない特別の苦労と責任が課せられています。好きな診療に専念できればと、時に夢想するドクターもいるかもしれません。しかし、このコラムで訴え続けてきたように、歯科医療は、人間の健康・QOLの根幹を担う尊い仕事、「最高の癒し」を提供する仕事にほかなりません。21世紀は、これまでの削り、詰める補綴=疾病対応の役割から、咀嚼をはじめとする口腔の機能を守り育て、美と健康を増進させる役割へ、また全身の健康に直結した口腔保健の役割へと、大きく舵が切られる劇的な変革期なのです。厳しさと可能性が混在しています。
この時期に新たな夢を描き、決断し、その実現に必要な「技術」を身につけることは、単なる「勝ち組」を超えて、歯科界に新たな価値を創造する「価値組」としての飛躍を可能にするはずです。院長の「夢」に、チームメンバーであるスタッフの「夢」を重ね、ともにその実現をめざして全力を尽くし喜び合える歯科医院づくりをめざしていきましょう。