医院で「いちばん大事な人」に
「患者中心」思想を医院経営の根幹に据えて
●アメリカの現実―歯科医収入「上位8%」
「歯科医療における患者利益」をテーマに開催された日本ヘルスケア歯科研究会のシンポジウムで、「歯科医療サービスに社会が求めるもの」と題して演壇に立ったM.アルキアン博士(元米国公衆衛生歯科学会会長)は、「歯科先進国」アメリカ医療の「光と影」の現実を明らかにしました。GNPの13.5%、1兆ドルを超える医療費を費やしながら、平均寿命が70歳(世界24位)、医療の質・制度で37位、65歳以上の無歯顎者が30%等々の「影」を抱えながら、歯科においてフッ素水道化(人口の62%をカバー)を初めとする予防歯科の導入によって1973年のDMFS値16.9(17歳)を30年間で59%激減させ(1994年7.0)同じく診療内容でも定期健診・予防処置・歯周治療を65%増やすという大きな歯科の構造転換を遂げました(表)。
そのなかで歯科医師の年間収入は$133,433(約1,600万円・所得上位8%内)、様々な職種のなかで8番目に国民から信頼されるなど、アメリカにおいては社会的に極めて安定した階層であることを印象づけました。
●日本の現実──「自殺」「倒産」の多発!?
3月12日のテレビ朝日系の「歯医者ピンチの裏事情」をご覧になった方もおられると思います。歯科界の内部では「厳しい」という声が渦巻いていますが、それが一気に「茶の間の常識」になり、患者さんから「歯医者さんもたいへんなんですね」と同情される立場になりました。番組のなかの「1割の歯科医院に患者が集中し、2割が平均。残り7割のうちの半分は淘汰されても不思議ではない」「自殺者も倒産も増えている」という経営コンサルタント齋藤忠氏の言葉が、視聴者の耳に強く残りました。7割の半分は35%、全国6万4千医院の3分の1が倒産や廃業の憂き目を強いられることになります。
現在の補綴中心の医療制度が抜本的に変わらない限り、それは必然的といえるでしょう。歯科医院の経営危機については、すでに1992年に野村総研が「歯科診療所経営の収支は2010年で現在の40%まで落ち込む恐れがある」と分析し、厚生省(当時)ですら98年5月、「2025年には9,000〜18,000人の歯科医師が過剰になる」と具体的な数値を発表しています。私たちコムネットも「歯科ビッグバン時代に飛躍する医院作りを!」と訴え続けてきました。
●歯科の未来―〈予防・アメニティ〉で希望の21世紀
同時に私たちは、歯科には大きな可能性があり「未来は明るい」と主張してきました。それは、世界の潮流のなかで、何が凋落し、何が発展していくのかが明かになっているからです。削り被せる「痛い・こわい」歯科医院ではなく、予防とアメニティ中心の「優しい・楽しい」歯科医院へ、迷わず舵をとるべき時を迎えています。
前述のアルキアン博士は「Futureは?」と問いかけます。「来院された患者さんが、その医院で一番大事な人として扱われ、患者さんにとって何がべストなのかということを、患者さん自身が感じられる歯科医院」、具体的に「(1)お待たせしない、(2)スタッフはフレンドリーで礼儀正しく、(3)清潔で整理整頓されていること」と、めざすべき医院像を提起しました。日本の「歯科医療」の概念そのものが大きな転換を求められる今、目を向け、依拠すべき相手は患者さん以外にはありません。まずは、同じ目の高さで見、同じ立場で考えることから始めましょう。