歯科界の「二極化」構造
数字から「歯科の明日」を展望する
前回では、「歯科ビッグバン」に向かっていち早く第一歩を踏み出したドクターの取り組み、意気込みを紹介しました。それに対して「何かやらなければと思うが、まだそれほど切実には感じていない」という感想も聞かれました。今回は医療経済のマクロの視点から、「厳しくなった」「将来はどうなるのか…」という誰しもが抱いている漠然とした不安を追跡します。
●医院開業増6万3千 ― 患者大幅減(▲6.2%)
中医協(中央社会保険医療協議会)が2年毎に行う「医療経済実態調査」(昨年6月調査)によると、医院経営の最も重要な指標である「患者数」は1日25.9人から24.3人へ、6.2%も減少していることがわかりました。供給側はどうか。歯科医師は85,669人(98年)、全国の歯科診療所の数は62,484医院にのぼります(99年 厚生省医療施設調査)。97年からの2年間に1,905医院も増加しています。
実に1医院に対して人口2,028人、現在の診療スタイルによる「需給バランス」からみれば、すでに飽和状態を迎えています。「歯科医院が増えて患者が減る」という構造の下、歯科医療費は年間2兆5,204億円。統計開始以来初めて2年連続のマイナスを記録しました。医院経営には「イエローカード」が出されています。
●二極化 ― トップ層VS底辺層の格差10.89倍に拡大
収入面ではどうか。一般の会社の売上高にあたる医業収入は、1診療所あたり月390万円(1999年)。点数改定によって診療報酬が1.4%程度アップしても、2年前と比べて16万円(3.9%)も減少しています。医業収入の落ち込みは、患者数の減少が直接の原因です。医業収入から医業費用を差し引いた差額(利益)は122.6万円。院長の所得も、金額で1ヵ月8万円(6.3%)も少なくなっているのです。
医業収入の減少をカバーして利益を確保するには、リストラを含め支出削減を断行しなければなりませんが、労働集約型医療技術サービスという性格をもつ歯科の場合、コスト削減が思うように進められないのが現実です。ある調査によると、歯科医院トップ層20%と底辺の層20%の収入を比較すると、1994年には5.05倍だった格差が、1999年には10.89倍にまで広がっています。繁栄と没落の「二極化」がさらに進んでいることを示しています。「2025年には9000〜18000人の歯科医師が過剰になる」(厚生省)。「底辺」に位置するグループは、その予備軍といわなければなりません。
●「選ばれる」医院づくり、「需要創造」への挑戦を!
医院経営を好転させるには、こうした現実のなかから展望をきり拓かなければなりません。今までと同じやり方、周りと同じことをやっていて、将来が安泰という保証はどこにもありません。また、いつ強力なライバルが近くに出現しないとも限りません。いかなる時代が到来し、いかなる事態に直面しても揺るがない経営基盤を確立するには、「患者さんに選ばれる」セールスポイントが必要です。
方法は様々です。予防、審美、矯正、アメニティ提供への取り組み、またISO、IT等先進分野の展開、さらには、地域で力を合わせて潜在患者を掘り起こす活動…。「需要」は多く打つべき手はたくさんあります。それらの戦略に共通するのは「患者さんの健康と美、幸せのために尽くす」ということです。患者さん本位の医院経営に挑戦すること、それこそが医院繁栄への王道に他ならないのです。