「沈没」しないために
変革の中心テーマを見極めすばやい対応を
●『病院沈没』を読みましたか?
――外資参入で医療ビッグバンが始まった! 惰眠をむさぼってきた日本の医療界は、目前に迫った医療市場の開放に対応できるのか? ……保険、医薬品、医療機器、検査業界など、医療ビジネスの全分野が、世界中から狙われて大競争の荒波に翻弄されるのだ。その結果、患者本位の開かれた医療が実現するなら、国民は「病院沈没」を支持し、古い体制は見捨てられるだろう。――
『病院沈没』(丹羽幸一・杉浦啓太著 宝島社刊)のショッキングな内容が、医療界に大きな波紋を投げかけています。歯科界では、残念ながら現在直面している大きな転換期に対する認識はまだ甘く、反応も機敏ではありません。目下進行している事態、そして今後の進路を見定める多くの示唆に富んだ1冊として、皆様方にもぜひ一読をお勧めします。
●変革のテーマ=患者中心の効率的な医療
あらためて整理すれば、「医療ビッグバン」とは、市場原理の導入による単なる「弱肉強食」ではありません。規制撤廃・緩和(外国資本導入、「民間活力」導入、公益法人見直し等)と情報公開(カルテ・レセプト開示、電子カルテ化、広告規制緩和)を柱に、医療サービスの消費者である「患者さんの満足」を中心に据えた根本的な医療改革なのです。
歯科医院に対しても、これまでの医療保険制度が破綻し、「護送船団」から離れて自己責任と競争・淘汰の原理が導入されます。その中でいかに「生き残るか」その戦略の構築を急がなければなりません。その時代は目前に迫っています。いま、医院の、そしてドクター自身の進路が問われています。
●「15の提言」の画期的な意義
先頃、日本歯科医療研究会が開催した第2回学術シンポジウムにおいて「少子高齢化時代の歯科医療に向けて」と題する「国民の視点からの課題と15の提言」が発表されました。(会員情報誌・Together 2000年6月号 9ページに掲載)それは「コツコツと歯科医院に通う国民の視点」から、政府や企業、医療担当者の利害を超えて、歯科医療を予防にシフトした場合の医療経済学的な考察も加えて、21世紀の歯科医療像を提言しています。
そのなかでは、「国民に口腔衛生思想を普及し、毎日のセルフケアを動機づけ、年に数回は専門家の口腔清掃を受ける」という、あるべき姿を実現するために、歯科医療のあり方の基本を「予防指導型」に据え、歯科医療費の予防への重点配分を求めています。また、「かかりつけ」「専門医」「オーラルフィジシャン」による歯科医療の供給、企業・自治体に予防事業を義務づける、歯科衛生士に「予防歯科医院」開業の道をひらくなど、画期的な内容を盛り込んでいます。
それらは、医療ビッグバンをくぐりぬけて「生き残る」、言い換えれば「沈没」しないために、個々のドクターをはじめ、歯科界全体が真剣に取り組まなければならない課題なのです。対応を急がなければなりません。